法人の役員給与、損金に算入できるかの判定は2段階で判断します。
(本当は3段階ですが、法人税法第34条3項基準は省略します)
1段階目は、役員給与が定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与に
該当するかどうかです。ここでこれらに該当しないと役員給与のうち一定の
金額が損金不算入となります。
定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与に該当すれば次です。
2段階目は「不相当に高額な部分」の金額がないかどうかです。
この2段階目は、役員各人別の支給状況に照らし不相当に高額な部分の
金額がないか、定款等で定めた支給限度額を超えていないか
(取締役、監査役単位で)、で判定します。
両方ある場合は大きい方の金額が損金不算入となります。
今回の判例は、1段階目はクリアしたが、2段階目の役員各人別の支給状況
から見て役員給与が否認された判例です。
令和2年1月30日 東京地裁
概要
主として中古自動車の輸出事業等を営むA社が、代表者Bに支給した
役員給与の全額を損金の額に算入して法人税の申告をしたところ、
税務署が、本件役員給与の額は法人税法第34条第2項に規定する
不相当に高額な部分があるとして更正処分(否認)をした。
なお、「不相当な高額な部分」として否認されるべき金額は、
A社の同業種類似法人と認められる抽出法人の役員給与の「最高額」を
超える部分の金額とされた。
裁判所の判決
不相当に高額な部分の有無
A社の収益が減少傾向にあり、使用人給与の支給額も穏やかな減少傾向に
ある中で、本件役員給与はこれに逆行する形で急増し(平成23年2億7,200万円
→平成27年5億2千万円)、その額の高さと増加率は著しく不自然であるし、
同業類似法人の役員給与の最高額と比較しても、その較差は合理的な範囲を
超えるものとなっている。
そして、このように不自然に高額な役員給与によって、A社が納付した
法人税の額は、本来よりも大きく圧縮されることとなっているのであるから、
A社が本件役員給与の全額を損金に算入したことにより、課税の公平は
著しく害されている。
以上によれば、本件役員給与に「不相当に高額な部分」があることは
明らかである。
不相当に高額な部分の金額
A社の各事業年度の売上金額が69億円から89億円に及んでいたことや、
各業務において代表者Bが行っていた具体的な活動の内容からすると
A社の売上を得るためにBが果たした職質及び達成した業績は、
一般的に想定される職務の範囲内でも、相当高い水準にあったといえる。
本件抽出基準等によるA社の同業種類似法人の摘出が必ずしも厳密な
事業の規模ないし性質の同一性の要求の下にされたものでないところ、
A社の売上を得るために代表者Bが果たした職責及び達成した業績等の
本件における事情に鑑みると、各抽出法人の「平均額」を超える部分を
全て「不相当に高額な部分」に当たるものとした場合、代表者Bの職務に
対する対価として不相当と認めるべきでない部分が含まれることになって
しまう恐れがある。そうすると、本件の事情の下では、各抽出法人の
役員給与の「最高額」を超える部分をもって「不相当に高額な部分」
に当たると認めるのが相当である。
私の見解
「不相当に高額な部分」の金額、役員各人別の支給状況からどうやって
判断するのでしょうか?
法人税法施行令第70条1項に書かれています。
かいつまむと、
・その役員の職務の内容
・その内国法人の収益の状況
・その使用人(従業員)に対する給与の支給の状況
・その内国法人で同業種を営む法人で事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給状況等
を判断基準にしなさいとあります。
でもこれ、具体的な判断基準となる数値等はないのでとてもわかりにくい
と思います。
なので役員給与については裁判で争われことが多く、その判断基準が判例等で
次第にわかってきました。
今回の判決のみならず、役員給与で「不相当に高額な部分」が争われる
場合でまず出てくるのが、同業種・事業規模が同じぐらい(売上が同じぐらい)
の類似内国法人との比較です。
その類似内国法人との比較で明らかに役員報酬が高い場合は
その高い部分の金額が「不相当に高額な部分」とされることが多いです。
それで、いくら否認されるのか、という話ですが、
A社は近年売上が落ちている、従業員給与も減少傾向、それに反比例して
代表者Bに対する役員報酬だけは爆上がり、という状況でした。
でも、売上に対するBの貢献度が認められ各抽出法人役員給与の最高額を
超える部分の金額が否認されました。社長の売上に対する貢献度に
よって否認する金額を決めているので、妥当かな、という印象です。
他の判例を見ても否認される金額は、各抽出法人の最高額を超える部分の
金額であることが多いようです。
利益が出てているので役員給与増額を考えている会社は
それなりにあると思います。
年間3千万円ぐらいまでであればそれほど気にする必要は
ないかなと個人的には思いますが、桁が一桁変わる場合などは
同業種・事業規模が同じくらいの内国法人と比較して
高すぎないか、の検討は必要だと考えます。
役員給与は、毎月同額(定期同額給与)、税務署に適正に届出をした
賞与(事前確定届出給与)に該当すれば全て損金になる、という
ことではありません。
上述の「不相当に高額な部分」の金額がないかもしっかり確認しておく
必要があります。否認されてからでは遅いですので。
おわりに
役員給与で否認が発生してしまうと場合によっては
会社に大ダメージになりことも。追加の税金、加算税、などで
とんでもない金額を支払うことになるケースもあります。
役員給与の否認だけは絶対避けなければいけません。