今回と次回の記事は、判例・裁決事例です。
裁判等で判断された事例は、今後同じような事例があったときの
判断基準となります。つまり、実質的に法律と同等の効力を持ちます。
今回は、医者（個人事業主）の交際費が否認された事例をご紹介します。
医者の交際費が否認された事例
〜交際費の業務関連性が具体的に検討された事案〜
（平成25年7月9日 裁決）
概要
不妊治療専門クリニックを経営する個人の医者が事業所得の計算上
必要経費に参入した接待交際費を含む各費用の一部が業務の遂行上必要
とは認められないと否認された事例。
否認された接待交際費の内容は、
①各医師とらとの飲食代
②税理士、建築士との飲食代
③従業員との飲食代（全従業員を対象としていなかった）
④接待交際の相手先が不明な飲食代、お中元代
裁決内容
①各医師らとの飲食代
医師らを日頃から接待することで将来、手術等が必要になった場合に
結果その医師の患者らによりよい治療ができたとしても、そもそも
医師には診療義務があり、他の医師等への紹介状が必須というわけでもなく
患者において手術等を終えた後にそのドクターのクリニックに戻るとも
限らず、接待すれば戻るというわけでもないため、専ら業務の遂行上
必要であるとまでは認めることはできない。
②税理士、建築士との飲食代
勤務時間の都合上、食事をしながら税務相談及びクリニックのホームページ
の更新・修正を打ち合わせすることとなったとしても、食事を一緒にする
という事態がたまたま生じたにすぎず、税理士及び建築士との飲食代が
専ら業務の遂行上必要であるとまでは認めることはできない。
③従業員との飲食代
従業員の採用面接時の飲食代、すでに働いている従業員の福利厚生を
目的とした飲食代（全従業員を対象としたものではなく、個別の従業員
との飲食代）については、従業員と懇親のために支出する費用が必要経費
に該当するか否かは、懇親の目的、従業員等の参加割合、支出した
金額等を総合的に判断して、それが業務の遂行上必要といいうるか
否かによって判断されるべきである。
従業員との飲食代は、納税者が個別の従業員と飲食した費用であって、
いずれも従業員の一部を対象としたものであることからすると、一般的に
業務の遂行上必要なものと認められない。従業員の採用面接時の際の
飲食代については、客観的にみてその必要性を認めるに足りる証拠は
ないから、業務の遂行上必要なものとは認められない。
④接待交際の相手方が不明な飲食代、お中元代
相手方が特定できなかった飲食代、お中元代について、具体的内容を
明らかにすることができず、業務との関連性を説明することができない
のであるから、客観的に見て、納税者の業務の遂行上必要な支出とは
認められていない。
見解
①各医師らとの飲食代
一見問題ないように思えます。しかしダメという裁決です。
ポイントは、「そもそも医師には診療義務があり、他の医師等への
紹介状が必須というわけでもない」というところだと個人的に思います。
医師には診療義務があるので他の医師から手術等の依頼があったら
医師なんだからやらないとダメ。だからそんな飲食代は事業と関係ない
でしょ、といったところでしょうか。キビシイなと思います。
②事業者（税理士、建築士）との飲食代
事業者との打ち合わせ自体は当然事業に係るものです。
しかし、食事をしながら打ち合わせをする必要なないという判断です。
食事をしなければ人間は生きていけないので、それは事業に
係るものではなく一個人としてのものだという判断だと思います。
③従業員との飲食代
福利厚生とは、すべての従業員のために提供する給与以外のサービスの
ことです。これらの従業員との飲食代はすべての従業員を対象として
いないのでダメという判断です。また、採用面接時には普通飲食する
ことは少ないと思われ社会通念上という考え方からダメというのも
あると思います。
④接待交際の相手方が不明な飲食代、お中元代
経費として計上した以上、当然事業との関連を説明できなければ
いけません。説明できないのであれば否認されます。あたりまえです。
全く業務と関係のない飲食代、お中元代を経費に入れて申告したと
推測されます。
おわりに
接待交際費の事業関連性が具体的に検討された事案をご紹介しました。
その経費が事業に係るものなのか、一個人としてのもの（家事費）なのか
の入口の判断でした。個人事業主の経費算入の要件としては、その支出が
業務の遂行上必要であり、さらに家事費と明確に区分することです。
ちなみに法人であれば①②③は交際費で問題ないと思います。