消費税の計算にあたり仕入税額控除をする際に、課税売上割合が95%未満、
又は、課税期間の課税売上高(その期の消費税法上の売上)が5億円を超える
場合は、仕入税額控除をする際に全額控除できず個別対応方式か一括比例配分
方式で計算する。
個別対応方式で仕入税額控除を計算する際、その分類により大きく納付税額が
変わることもある。今回の判例は正しくそのケースだと思われる。
令和元年10月16日、東京地裁での判決。
概要
中古不動産の買取再販売を主な事業とする会社が、消費税等について、
販売目的で行った課税仕入れである建物の購入(購入時にその全部又は
一部が住宅用として賃貸されていた建物の購入)をして、確定申告で
消費税の計算の際、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」(課のみ)
として申告したところ、税務署から各課税仕入れは「共通課税仕入れ」
に区分されるものとして各更正処分等を受けた。
これらの取消しを求める事案と、仮に本件課税仕入れが「共通
課税仕入れ」に区分される場合、課税売上割合に準ずる割合として
本件割合は合理的に算定されたものであると主張して、適用承認申請
したところ、税務署から承認申請の却下を受けたことから、その取消を
求めるとともに、本件割合の適用承認の義務付けを求める事案(※)
である。
※課税売上割合に準ずる割合の適用承認は認められず。
裁判所の判断
個別対応方式により控除対応仕入税額を計算するときは、その区分の判断に
ついては、課税仕入れが行われた日の現況に基づいてその取引が事業者に
おいて行う将来の多様な取引のうちのどのような取引に要するものであるかを
客観的に判断すべきものと解するのが相当である。
原告は、不動産の買取再販売を主な事業としていること、各建物をいずれも
棚卸資産としていること、各建物の全部又は一部は、購入時に住宅用に賃貸
されており、購入によって原告は賃貸人の地位を承継し、引渡日以後の賃料を
収受していたことが認められる。
これらの事情を踏まえ検討すると、各建物は課税仕入れが行われた日の状況に
おいて、販売に供されるとともに、一定の期間、住宅用の賃貸にも供される
ものであったと認められることから、課税資産の譲渡等にのみ要するものとは
いえず、また、その他の資産の譲渡にのみ要するものともいえないのであって、
各課税仕入れは、共通課税仕入れに該当するというべきである。
私の見解
課税仕入れ等の分類の判定時期は、課税仕入れを行った日の現況によって
判断する(消費税法基本通達11-2-20)。今回だと、課税仕入れを行った日は
建物の引き渡しを受けた日となる。
その日の現況でその建物を購入することにより今後発生すると
考えられる売上は、
・その建物を売ることにより発生する売上(課税売上)
・住宅の貸付による売上(非課税売上)
です。
なので、今回の判決での共通課税仕入れという判断は妥当だと思う。
建物購入時に、その建物に入居者がおらず、単に販売目的ということで
あれば、課税仕入れ等の区分は「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」
(課のみ)で問題ない。
購入時は販売目的だったが、売るのに時間がかかりそうだったので
その後一時的に居住用として貸すことにした、という場合でも
購入時には販売目的のみであったのだから、この場合でも
「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」で問題ない。
たしか昔の判例にあったはず。
おわりに
この判例の原告は不動産売買会社だったので、課税仕入れ等の分類を
「課のみ」(支払った消費税を全額控除できる)か
「共通」(支払った消費税のうち、課税売上割合分しか控除できない)
かにより消費税の納付額が数千万円(億かも)変わると思われます。
今回と似たようケースの判例も過去にはありますが、どれを見ても
課税仕入れ等の分類の時期判定については、「課税仕入れを行った日の現況」
により判断する判決内容になっています。
消費税は、「事故」が最も多い税目。
税理士の責任賠償責任保険の事故でも消費税のみで支払件数、支払金額で
約半分を占める。