決算で消費税の還付額(納付額)の計算にあたり、仕入税額控除が
できるか?できないか?を判例で見ていきたいと思います。
消費税は、税理士職業賠償責任保険事故事例でもっとも多いので
注意が必要です。
概要
・T社は、商品を外国へ輸出する事業を営んでいる
・消費税の計算期間(課税期間)を1月に短縮して毎月消費税の申告をして、消費税の還付を受けている
そのT社に税務調査が入った。
T社は、国内の卸売事業者等から商品を買い付けたとする取引を
「課税仕入れ」に該当するものとして、消費税の還付申告を
していたが、この「課税仕入れ」としていた取引の一部は
認められないと税務署から言われてしまった。
上記の事例は、納税者側で納得がいかずその後裁判で争われたものです。
平成31年2月20日、東京地裁で判決が言い渡されました。
何で税務署はダメと言ったのか?
仕入税額控除をするには「課税仕入れ」に該当する必要がある
「課税仕入れ」に該当するには、以下の4つの要件を満たす必要があります。
① 事業者が事業として行うこと
② 相手方でモノ・サービスなどを売った・貸した・役務の提供であること(輸出免税取引を除く)
③ ②の内、給与等を対価する役務提供を除く
④ 相手方は問わない(消費者でもOK)
今回は、①の「事業者が事業として行うこと」が争点となります。
具体的状況
・T社とS社は、商品の売買契約を締結していなかった
・S社は国外のF社とは基本契約書等により売買基本契約を締結していた
・S社と取引するには、会員登録が必要だったがT社は会員登録していなかった
・T社はS社との取引において、発注する商品の内容や数量の決定に関与しておらず、これらを決定していたのはF社であった
・S社への支払はT社が行っていた
・F社へは、S社への「支払額−消費税+手数料」で請求していた
東京地裁の判断
上記の具体的状況から、東京地裁は「商品代金額の決定自体にT社の意思が
介在するものでなく、その実質は立替払である」として税務署の主張を
認めました。
私の見解
仕入税額控除をするには、その取引が「課税仕入れ」に該当しなければ
いけません。その「課税仕入れ」の要件の1つ、事業性の有無が争点と
なっています。
今回の判例だと、T社とS社は売買契約を締結していない、T社はS社との
取引において、発注する商品の内容や数量の決定に関与しておらず、
これらを決定していたのはF社であった、という状況から考えると
当該取引はT社とS社との取引ではなく、外国のF社とS社との取引、
と考えるの正しいと思います。T社は、その取引代行をしているだけなので
T社とS社との取引には事業性がない、と考えます。
なので、T社のS社からの仕入取引は仕入税額控除できない(単なる立替)
ということになります。
税務署の味方をしている、ということではないです。
私はこの取引に直接関与しておらず、判例集で読み
消費税法の「課税仕入れ」に該当するか照らし合わせて
判断しているだけです。
重要なのは、決算で申告書を提出する前に取引実態を把握して
根拠法令に基づき適正な判断をすること、です。
税務調査が入り否認項目があると、延滞税、場合によっては加算税が
課されてしまい、余計な支出が増えます。これは結構痛いです。
さらに、重加算税が課されてしまうと税務調査が来やすくなって
しまう、ということもあります。