令和2年1月16日 東京高裁で確定したつい最近の判例です。
概要
A社は、代表者Bの内縁の妻Cに対して毎月45万円の給与を支払っていたが、
全額が否認された。
代表者Bは、A社の業務として、建設用機械の開発・企画・設計等を行って
おり、A社で仕事をする他、C所有の家屋のうち1室を自己の仕事用に使わせて
もらい、そこにパソコンを持ち込んで上記の仕事をしており、CはBの世話を
していた。
A社は、Cに対して毎月給料を支払ってはいたが、A社に出勤はしていなかった
状況。A社はCの出勤簿を作成、社会保険の資格を取得をさせCがA社の従業員で
あるかのように装って毎月給料を支給していた。
裁判所の判決
CはBの世話をしており、その一部にA社の業務といえるものが含まれていたと
しても、家庭の主婦が夫に頼まれて行う業務の範囲にとどまる軽微な内容の
ものにすぎないと認められる。
A社がCに対する給与とした支給額は、CがA社の従業員として労務を提供した
ことに対する対価とは認めることはできず、その実質は、代表者Bと共同生活を
営む内縁の妻Cが、自宅で仕事行うBのために多大な苦労を伴う活動を継続
してきたことに対し、その内助の功に報いる生活保障の趣旨で支給された
ものと認められるのが相当であり、これはBが個人として負担すべき費用を
A社が負担したものにほかならない。そうすると、A社の費用負担により
Bが得た経済的利益は、法人税法第34条4項に定める「その他経済的な利益」に
当たり、A社がその役員であるBに対して支給する給与に含まれるものと
いうべきである。
Cに対するA社からの給与の支払いは、A社の代表者Bに対する役員給与に
あたるところ、A社はこれをCに対する給与手当として経理処理し、出勤簿を
作成して、Cに社会保険の被保険者の資格を取得させ、CがA社の従業員で
あるかのように装い支給をし、本件支給額を損金の額に算入したものである。
したがって、A社による本件支給額は、Bに対して支給した役員給与を、Cに
対する支給した給与手当であると事実を仮想して経理をすることにより支給
したものと認めるのが相当である。
私の見解
A社がCに支給した給与の否認は、A社にとってはトリプルパンチです。
①Cに対する給与手当全額否認
②Bに対する役員給与と認定されたので、その給与に対する源泉所得税
(源泉所得税に対する不納付加算税も)
③隠ぺい仮想なので、重加算税の付加
①については、毎月の支給額が同額なら定期同額給与に該当し、Aに対する
役員給与でも損金算入になるんじゃないの?と思う方がいるかもしれません。
法人税法上、定期同額給与(法人税法第34条第1項)、事前確定届出給与
(法人税法第34条第2項)に該当すれば損金なのですが、それらを事実を
隠ぺいし仮想経理することにより支給したその役員に対して支給した
給与の額は損金の額に算入しない(法人税法第34条第3項)、という条文が
あります。この第3項と認定されてしまうと、毎月同額の役員給与、税務署に
事前に適正に届出をして適正に支給した役員給与でもそれらの給与は
全額否認されます。今回は、この第3項により全額否認となったわけです。
Cに対する給与の支払いが、本来Bに対する役員給与だけど、隠ぺい仮想した
ものなのか、が争点の1つです。CがA社に出社し、A社の何らかの仕事を
していれば普通にCの給与と認められたかもしれません。でもそのような
事実はなくただCに給与を支給していた状況で、さらに出勤簿も偽装していた、
ということですので、私も隠ぺい仮想だと思います。
これは私の勝手な想像ですが、A社はCに対する仕事を名目上用意していたと
思います。税務調査の際、実際にはその用意されていた仕事のことをCが
直接聞かれ内容を答えられなかったので、税務職員は怪しいと思いさらに
事実を深堀りしていったのではないでしょうか。恐らく顧問税理士もいた
でしょうから、その税理士がアドバイスをしてです。でも深堀りされた結果
ばれちゃったのかなと。くどいですが、私の勝手な想像です。
代表者に奥様に給与を支給している会社は、それなりにあると思います。
会社の仕事をせずに、ただ給与を支給しているだけでそれがバレると
今回のように否認される可能が高いと思います。給与は仕事の対価ですので、
仕事とのヒモ付けが必要です。形式ではなく、事実が最重要です。
税務は形式ではなく事実と常識で判断します。
おわりに
状況を考えると、何でA社を時間と費用を掛けてまで上告までしたのかな?
疑問です。負ける可能性はとても高かったのに。
文章だけではわかならい何かがあったのかも。